【感想】NHKスペシャル 混迷の世紀(1)ロシア発エネルギーショック

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たまたま、レコーダーで録画されてた番組が興味深かったので見てみました。その内容と感想、追加でネットで調べたことも添えたまとめです。

ウクライナ紛争による影響

今年に入りロシアがウクライナに侵攻して、紛争が続いてますが、それに端を発して世界にどんな影響が出ているかが語られています。

ウクライナへの侵攻は国際社会として認めることはできないとして、アメリカやヨーロッパ諸国はロシアに対して経済的な制裁を行いました。

それに対して、ロシアは液化天然ガス(LNG)の輸出を制限し始めています。

こちらのページで見るとロシアは2021年時点で世界第1位のLNGの輸出国でした。日本はなんと輸出量ゼロ!

世界の天然ガス輸出額 国別ランキング・推移 - GLOBAL NOTE
2022年の世界の天然ガス 輸出額 国別比較統計・ランキングです。各国の天然ガス輸出額と国別順位を掲載しています。液化或いは気体の天然ガス輸出額。時系列データは1995-2022年まで収録。

これに対して、LNGの輸入額ランキングはこちら、1位は中国。日本はなんと4位につけてます。日本は世界的にもかなりLNGの輸入依存度の高い国であることがわかります。

世界の天然ガス輸入額 国別ランキング・推移 - GLOBAL NOTE
2022年の世界の天然ガス輸入額 国別比較統計・ランキングです。各国の天然ガス輸入額と国別順位を掲載しています。液化或いは気体の天然ガス輸入額。時系列データは1995-2022年まで収録。

では、日本ではこのLNGをどんなことに使ってるかというと7割を火力発電所の燃料として使っています。

液化天然ガス(LNG)とは?どれくらい輸入されて、何に使われているの?
火力発電の燃料や都市ガスの原料などとして欠かせない液化天然ガスがどのようなもので、日本にとってどのような重要性を持っているのか、調べてみました。液化天然ガスの用途としては、輸入量の7割近くが火力発電所の燃料、残り3割強が都市ガス用として使われています。

2011年の東日本大地震の教訓から日本は原子力発電による電力供給比率を下げる方向で進んでいて、その削減部分をカバーしているのは火力発電です。

【2024年最新】日本における発電量の構成割合は?再エネ発電普及のポイントを解説
日本における発電割合は、2022年度の発電実績によると、化石燃料によるものが72.7%である一方、再生可能エネルギーによるものは21.7%と、いまだに化石燃料への依存度が高くな...

【2022年最新】日本における発電の割合は?再エネ発電普及のポイントを解説日本における発電の割合は、2020年度で化石燃料による火力発電が76.3%を占めています(総合エネルギー統計)。現在はパearthene.com

2020年度の日本の電力供給の76.3%は火力発電による供給で、そのうち39%がLNGを燃料としています。

原発問題で揺れ続ける日本が頼っていた火力発電がLNGにかなりの部分支えられてたんですね。

LNGの価格上昇は電気代上昇へ

ロシアが諸外国にLNGの供給を抑制したことで、世界中でLNGの争奪戦が始まってます。これによって、LNGの価格が上昇。その結果、各国の電気代が上昇してます。

EU諸国では2022年3月時点で2019年1月と比べて電気代が4割増。日本も1割増になっているそうです。4割増ってエグいですね。

電気料金の上昇が止まらない、どうして?(久保田博幸) - エキスパート - Yahoo!ニュース
 世界で電気料金の上昇が止まらない。火力発電に使う液化天然ガス(LNG)などの価格高騰が主因だ。2021年度のエネルギー白書によると22年3月の電気代は19年1月比で欧州連合(EU)で4割増、米国は1

そんな中、今年2022年の日本の夏の異様な暑さ。7月の時点で40℃近い暑さになった日も少なくなく、エアコンの活躍が例年よりもさらに早く頻度も上がりましたよね。

一時は計画停電みたいな話も出てましたが、このまま暑い夏が続いて、LNGの輸入を増やしたくても必要量の確保も簡単ではなさそうです、価格も上がりそう。

そもそも、原油や様々な原材料が高騰した影響で国内の各企業が商品の値上げをしている今、電気代も上がるとなると家計への影響もまた大きくなりそうですね。(ロシアは原油の世界第三位の輸出国で原油高にも関与しているという事実もあります)

カタールとの長期契約は終了

実は日本はカタールと年間550万トン規模のLNGの購入長期契約を結んでました。1997年から25年契約を結んでたので、2021年が最終年度でしたが、これを一部更新せずに打ち切ってました。

JERA社長、カタールとの大型LNG契約は更新せず-年末に終了へ
東京電力ホールディングス(HD)と中部電力の火力・燃料合弁会社、JERA(ジェラ)は25日、今年が契約期間の最終年であるカタールとの年間550万トン規模の液化天然ガス(LNG)長期売買契約について、延長しない方向で検討していることを明らかにした。

まさか、こんなタイミングでLNGの争奪戦がおきるとは誰も予想していなかったでしょうね。

ウクライナ情勢によるLNGの供給状況を踏まえて、カタールと改めてLNGの契約交渉を進めてますが、長期契約を更新しなかったことをカタール側が納得しておらず、交渉が難しくなっていることがNHKスペシャルで語られています。

カタールとしては交渉を受け付けないというわけではないようですが、世界的なLNG争奪戦となってるわけで、別に日本に売れなくても他に顧客はいる状況ですもんね。。。

希望:イクシスLNGプロジェクト

ここまで雲行きの怪しい話ばかりでしたが、明るい話も一つ。

日本企業が主導で進めていたLNG生産プロジェクトが史上初の成功をおさめて、2018年から出荷開始しています。

実施した企業は国際石油開発帝石(INPEX)。偉い!すばらしい!

プロジェクト名は「イクシスLNGプロジェクト」

https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ichthys_lng.html

オーストラリア北西部の沖合にある「イクシス ガス・コンデンセート田」を開発し、準州ノーザンテリトリーの州都・ダーウィンで生産するそうです。

プロジェクトが鉱区を取得したのが1998年で、そこからガス田を探して、掘削して開発。LNGを初めて出荷したのが2018年なので、20年の歳月を経ての偉業。

年間890万トンのLNGを生産でき、そのうち年間570万トン程を日本向けに供給するそうです。

2019年時点で、ロシアからのLNGの輸入量は631万トンなので、570万トンというとロシアからの輸入量に匹敵するサイズ。いいぞ、イクシス!

天然ガスの取引量|日本ガス協会
日本は利用する天然ガスのほとんどを輸入に頼っており、オーストラリアなどからLNGタンカーを使って運ばれてきます。国内消費量の増加に伴い、輸入量はこの10年間で約1.5倍に増加しています。

しかし、ここでまた暗雲が。
NHKスペシャルではこのイクシスの成功を元に、より安定したLNGの確保に向け、次のガス田開発に進むのは容易ではないと語られてます。

ガス田の開発は10年、20年とかかる事業でかつ初期投資には莫大な費用が必要。

しかし、昨今はCO2などの温室効果ガスの削減が世界的に叫ばれています。LNGもCO2の排出量が多い燃料であるため、この産出量を増やすためのプロジェクトに莫大な出資をするのは世界の潮流とはやや齟齬があります。そのため、出資してくれる企業・団体を探すのは必ずしも簡単ではありません。

「CO2排出量」を考える上でおさえておきたい2つの視点
CO2排出量のうち「エネルギー起源CO2」の占める割合は高く、エネルギーについて考える上で重要です。「CO2排出とその削減」の2つの視点をご紹介します。

化石燃料に代わる救世主は水素燃料?

NHKスペシャル(1)の最後はLNGに代わる新たな燃料となる可能性のある水素燃料の紹介でした。

水素燃料は水素の酸化、燃焼により発生するエネルギーを使うもので、なんとこやつは使用時にCO2が発生しないのです!

さらに水素は水を電気分解することで取り出すことができる他、食品廃棄物や下水汚泥といった「バイオマス」と呼ばれる動植物由来の資源からも精製できます。
まじか!すごいぞ!

これであれば産出国が地政学的に特定の地域に限られてしまうこともなく、普及していけば世界のエネルギー問題の緩和に繋がります。

水素による電力発電所もすでに開発が進んでいて、2022年4月にはイーレックス株式会社により、山梨県にて水素発電所が運転開始しています。

実証型の水素専焼発電所「富士吉田水素発電所」運転開始のお知らせ | イーレックス
実証型の水素専焼発電所「富士吉田水素発電所」運転開始のお知らせ イーレックス株式会社(本社:中央区京橋、代表取締役社長 本名均、以下、「当社」という)は、2021年11月より山梨県富士吉田市において実証型の水素発電所の建設を進めておりましたが、本年4月6日より連続運転を開始いたしますので、下記の通りお知らせいたします。...

感想

ロシアに端を発してLNGを巡るエネルギー争奪戦が始まり、経済的な面でも世界を大きく揺るがす状況です。

ウクライナ紛争はまだ数年続くだろうと言われているので、これによって各国の情勢が不安定になっていけば、もしかしたらまた別の紛争に繋がるかもなぁと思いました。

人類は二度の世界大戦を経て、戦争反対の意志は世界的なコンセンサスになったと思います。ただ、現代においても局地的には紛争が続いている地域もあり、情勢が極度に不安定になっていけば、果たしてどこまでこのコンセンサスが守られるだろうかと考えます。

武器を持った戦いがなくとも、経済やエネルギーを巡る争いは現実に起きていて、それらは僕らの生活を大きく左右してきます。

水素燃料含め技術の進歩がエネルギー問題の安定化に繋がって欲しいし、そのための投資が滞らないような社会にしていかないとなと感じました。

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