あらすじ
精神科医のレイ・フレミングは妻のキャロルがいながらも若い大部屋女優のジョーン・ハドソンと浮気していた。
結婚記念日のパーティー中にジョーンから電話が入ると、レイはキャロルには仕事だと嘘をついてジョーンに会いに行く始末。
しかし、レイの行動に不信感を募らせていたキャロルはジェーンの家から深夜に帰ったレイに対して離婚をほのめかす。離婚すればレイは地位や財産を全て失うことになる。
レイはその夜の外出はキャロルとのサプライズ旅行の計画を立てるための準備だったと嘘をついてキャロルの機嫌をとりつろう。
レイとジョーンはキャロル殺害計画を立てて、実行に移す。
レイは旅行の準備を整えたキャロルを自宅で、後ろから首を絞めて殺害。外側から窓を割って、貴金属類を旅行鞄に入れる。ジョーンがレイの家を訪れると、キャロルの青いドレスと手袋、サングラス、キャロルとよく似た髪型のカツラを身につける。
レイはキャロルの振りをして、メイドに翌日の朝、玄関前に洗濯袋を出しておくのでクリーニングに出すよう依頼する。
レイとジョーンは旅行鞄を持って空港へ向かう。ジョーンはキャロルの振りをして、夫婦旅行を空港スタッフやスチュワーデスに印象付ける。
機内に座るとレイとジョーンは口喧嘩の芝居をうって、離陸直前にジョーンだけ飛行機を降りる。
1人空港を後にしたジョーンはレイの自宅に戻り、洗濯袋に青いドレスを入れてその場を後にする。
レイは旅行先の海で、家から持ち出した貴金属類を捨てる。
旅行先から帰ったレイは自宅に入ると、キャロルが倒れていた場所に捜査用のテープが貼られ、窓も補修されていた。それを見つめていると、部屋の奥からコロンボが現れる。
コロンボは何者かが侵入してキャロルを殺そうとしたことを伝える。それを聞いて、一瞬戸惑うレイ。コロンボはキャロルが一命を取り留めているが話ができる状態ではなく、容態もかんばしくないことを伝えると、レイと共にキャロルの病院へ向かおうとする。
家を出る直前、ジョーンから心配していた電話が入る。コロンボにバレないように、患者からの問い合わせのふりをして電話を切る。
病院につくと、医師からはキャロルが息を引き取ったことを告げられる。
コロンボはレイを怪しみ、彼に度々話を聞きに訪ねてくる。
レイは検事局の友人のバートにコロンボに付きまとわれて困っていることを相談し、手を打ってもらえるよう取り付ける。
コロンボはレイの元を訪れ、自分が捜査を外れるように言われたことを告げ、圧力が掛かったのではいかと勘繰っていると話す。
しかし、レイはこのコロンボのほのめかしを見抜いて、程よくあしらう。
コロンボは次にジョーンに話を聞きに行く。レイとの関係を聞いたり、レイがキャロルを殺害したの睨んでいることを告げたり、キャロルのサングラス(ジョーンが空港に身に付けていったもの)を取り出したりして揺さぶりをかける。
ジョーンは動揺を隠せず、レイをファーストネームで呼んでしまったり、コロンボが捜査を外されたとレイしか知らないはずの事実を言ってしまったりとボロを出してしまう。
その夜、ジョーンはレイに電話をする。コロンボに揺さぶられ、不安になり会いたいと話すが、レイは夜に会いに行けばコロンボの罠にはまると諭し、翌日診察を理由に会いに来るように伝える。
翌日、ジョーンが診察の時間になっても現れないことを気になったレイは秘書に電話をさせると検死局の人間が出る。
慌てて、ジョーンの家に向かうレイ。そこにはコロンボの姿も。レイが家の中に入っていくと、ジョーンの遺体を運ばれていくところだった。
コロンボはレイに、ジョーンが睡眠薬を飲んで自殺したことを告げる。
これで唯一の証人がいなくなってお手上げとなったと話すコロンボ。ジョーンへの贖罪の気持ちがあるなら事件を自白するよう促す。ジョーンと一緒になるためにキャロルを殺害したのに、もうその意味もなくなっただろうと。
しかし、レイはジョーンを愛していて彼女と一緒になるためにキャロルを殺害したのではなく、キャロルを殺害したい時にたまたま愛人として手近にいたジョーンを利用したと話す。
その時、ジョーンが現れてその話を聞いていたことを告げる。レイが窓の外を見るとジョーンの遺体だと思っていたの人物が立っていた。遺体はよく似た別人が演技していたのだ。
コロンボはジョーンに供述を聞くために椅子に座らせる。レイは観念して、ゆっくりと煙草に火をつける。
感想
刑事コロンボの記念すべき第一作目。1968年の作品ということで、やはり映像は古いなーと感じる。原題は「PRESCRIPTION MURDER(処方箋 殺人)」となっていてコロンボのコの字もなかったんだね。
この最後の怒涛の展開と、それに対して全然説明的なセリフがなく、黙ってタバコに火をつけるレイで終わるところがめっちゃカッコよかったです。
この話のトリックなどなどはこちらのブロガーさんが分かりやすく整理してくださっていて、優れた補足資料になってます。
コロンボがレイを疑い始めた理由はもう最初に彼に会った瞬間から。
旅行先から家に帰ったレイが何も言わずに入ってきたことから、まるで妻のキャロルがすでにいないことを知っているかのようだったと話してました。
さすが名推理。
この辺り、真相がわかってからこの解説を見つつ、見返していくのが面白かったです。
コロンボが気づいた犯人の根拠
また、もう一度見返すと、他にもコロンボが気づいたかも?と言うポイントがありました。
レイはキャロルに何があったのか聞いた際にコロンボから「何者かが侵入して奥様を殺そうとしたようで」と聞きます。
すると、少し考える時間があって「殺そうとした?」と聞き返しています。
普通、妻を誰かが殺そうとしたと聞いたら、真っ先に妻は無事かと聞くはず。しかし、レイは一瞬の間を空けてしまったし、最初の言葉も不思議そうに「殺そうとした?」でした。
レイはキャロルを殺害したつもりだったので、コロンボの言葉を受けて、妻が亡くなった事を聞いて、ショックを受ける演技をしようとした一瞬の間のように見えます。
しかし、よく考えると「殺された」ではなく、「殺そうとした」と言われたのに気づき、虚を突かれてレイは聞き返してしまった。
この時点でコロンボはレイを怪しんでいたので、この言葉のチョイスも彼なりの探りの入れ方だったんでしょうね。普通は「何者かが侵入して奥様が襲われたんです。でも幸い奥様は無事ですので」とか言うんじゃないかなと。
妻が襲われたと聞いたら、ビックリして心配もするだろうから無事なことは早く伝えようとすると思うんですが、コロンボは「殺そうとした」と微妙な言い方をして、レイのリアクションを待っています。
さらにコロンボが、幸いにもキャロルは生きていると告げると、レイから口をついて出た言葉は、「生きているって!?キャロルは意識は?話はできるんですか?」だった。
「生きているって!?」って生きてることに驚いてるようにも取れるし、話ができるかを気にしてるのも不自然ですよね。ここも普通なら助かるんですか?とかそっちを気にするのではないかと。
後から真相を知って見返すとほぼほぼこの時点でコロンボはレイにターゲットロックオンしたんだろうなと思えます。
なぜコロンボは共犯に気づいたのか
物語の後半でコロンボはジョーンに揺さぶりをかけますが、何故コロンボは彼女が共犯とわかったのかと初見では不思議でした。
しかし、ここは先述のブロガーさんの解説で合点が行きました。
キャロルの病院に向かおうとした時、ジョーンからレイに電話が入ります。レイは患者からの問い合わせの振りをして、「今日は診察は無理なので、金曜の2時に来るよう」にと伝える。
しかし、診療の問い合わせが病院ではなく自宅に入るのはおかしいので、コロンボはこの電話も怪しんだはず。
そしてコロンボは「金曜の2時」にレイの病院を訪ねる。その時間に診察に訪れたのがジョーンであった。
これで少なくとも、レイとジョーンがただの医師と患者の関係ではないことが分かる。
仮にレイとキャロルが深い関係だったとしめ、はたして事件の共犯なのか?
レイがキャロルを殺害できたタイミングは旅行への飛行機に乗る前しかありません。
しかし、飛行機に乗るまでキャロルはレイと一緒にいたことが空港で目撃されています。すると、空港で目撃されたキャロルはキャロルではない別人。このキャロル役を演じることができる関係者はジョーンでは?と考えてたどり着いたのではないかと。後は、ジョーンに揺さぶりをかけてリアクションを見て確信に繋げたのだと思います。
しかし、ジョーンはちょっと揺さぶりに弱すぎましたね。あれじゃ、誰が見ても事件に関わってることがバレバレです。
女優じゃないのかい!とツッコミたくなるが、ああ、だから端役しかもらえない大部屋女優なのかと納得。
ただ、レイとジョーンが共犯だとして、レイのアリバイを確保しつつジョーンが殺害したのでは?という仮説もあると思います。しかし、この線は次のように消せます。
まず、レイと(ジョーンが変装した)キャロルが飛行機に乗ったのはロサンゼルス空港でした。ロサンゼルス空港からアカプルコへの搭乗時間は今、検索してみると8時間とか12時間とかかかります。
つまり、一晩中レイは飛行機の中だったということです。
もし、空港のキャロルが本物だった場合、彼女が飛行機を降りて家に帰ったのはアクシデントであって事前に予想不可能。
その夜に家にキャロルがいることを知っているのはレイだけになりますが、それをジョーンに伝える方法はありません。
なので、事件があの夜に起こったとなると飛行機の離陸後にジョーンが単独でキャロルを殺害しに行くはずがないということになる。
ジョーンは何故コロンボの策に乗ったのか
よくできたストーリーだとは思うのですが、一点不思議な点が。
なぜ、ジョーンは自分が自殺したという芝居に手を貸したのか。
ジョーンの役をした人は水着をつけていましたが、これは彼女の持ち物です(この水着は物語の冒頭でジョーンが着ています)。
なので、ジョーンの協力なしには成立しません。
この前の晩にジョーンはレイに電話をして、コロンボが家の監視に2人の刑事をつけていることを話しているので、この時点ではレイとの共犯関係は続いているようです。
翌日の午前10時の予約にジョーンが現れないことから、レイはジョーンの家に向かうことになりますので、この間、時間がほとんどありません。
前日にコロンボが揺さぶりをかけた後から夜のレイへの電話までの間ですでに、揺さぶりに負けてコロンボの策に応じることになっていたのか?
ただ、そうすると前日夜のレイへの電話はジョーンの演技ということになりますが、メンタル的にプレッシャーに弱いジョーンが演技をしていたようにも見えませんでした。
このプレッシャーに弱いジョーンであるが故にかもしれません。前日の夜に会いたいとレイに懇願しましたが、レイに諭されて、会うことをあきらめています。
頼りのレイもいない中で1人で、この後コロンボの揺さぶりを受けていたら、ジョーンも根負けしてコロンボの策に協力せざるを得ないかもしれません。
最終的にレイはジョーンを愛していないことがわかりますが、ここに至るまでにジョーンも不安を感じていたようです。
冒頭のレイとジョーンの密会のシーンで、ジョーンはレイに聞きます。
「彼女(キャロル)の方がずっとインテリなんじゃない?」
「わたしに何の取り柄がある?並の大部屋女優。そのくせ野心だけは人一倍」
「レイ、本当に愛しててくれる?」
自分がレイに愛されている自信が持てていないことがわかります。
この不安は物語が進む中でも消えませんでした。
殺害計画を進めることも含めて、不安を抱えるジョーン。レイに頼りたくてそばにいて欲しい時、連絡して欲しい時にもなかなかレイは捕まりません。
コロンボの策を実行する前夜のレイとの電話が繋がると
「ああ、よかった。何度も電話したの」
「今すぐ来られない?主治医だから往診したっておかしくないでしょ。レイ、わたし会いたいのよ」
しかし、レイは
「少しは頭を使え。コロンボは今夜僕らが会うのを待ってるんだ。罠にかかってもいいのか」
と言います。ちょっと冷たくね?
どこまでも理知的で筋の通ったレイの言葉。しかし、ジョーンは不安の中にいる自分のために会いにきて欲しかったんでしょうね。ある意味レイの愛情を確かめたかった。
コロンボがもし、ジョーンが持つ、レイからの愛情の不安を利用していたら。もし、ジョーンの自殺という芝居を使ってレイの本心を聞き出せるかもしれないと誘ったとしたら、これは最もジョーンを崩せる揺さぶりだったでしょうね。
いやー、そこまで計算してコロンボが揺さぶりをかけて策略をしかけたとしたら、すごい名刑事であり、かなりエグいサイコパスかもなと思いました。
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