メイキング・オブ・エイリアン(3)

エイリアン

エイリアンのデザイン

さて、監督がリドリー・スコットことリドスコさんに決まり、続いてはこの映画のキモ中のキモとなるエイリアンのデザイン。

A級作品にするためには非常に重要ながら、前例もなく最も困難な創作作業でした。いくつかの案は出されますが、製作陣の納得のいくデザインはなかなか生まれませんでした。

下のツイッタラーさんが上げているのは初期の頃のエイリアンデザイン。

上のデザイン見て「ザ・デプス」って映画のモンスターを思い出した。なんか蟹っぽい。宇宙なのに蟹!

そんなこんなで難航していたエイリアンのデザインを、オバノンは「デューン 砂の惑星」で出会ったHR・ギーガーに依頼します。

ギーガーの描く、機械と人間と昆虫が混ざったような独特のデザインにスコットやオバノン、シュセットらは絶賛でした。ダリのシュールレアリズムの精神を受け継ぐ現実と悪夢が入り混じったようなデザインはホラー映画のキャラクターとしてはぴったりですね。

しかし、ギーガーのデザインはパンチ力があり過ぎて、フォックス社側は難色を示します。これでは不気味過ぎて観客が逃げてしまうと考えました。

まぁ、確かにギーガーの作品はコアなファン向けに公開する分には尖っててよいかもしれませんが、大衆向けの映画作品で出すのは躊躇しても不思議ありません。

リドスコが気に入ったデザインはギーガーの「ネクロノミコン」という画集の中にあった「ネクロノームⅣ」という作品でした。この作品をベースにエイリアンがデザインされます。

作品を見てもらえるとわかりますが、この時点ですでにエイリアンの特徴的な長い頭部や背中の突起物などは形ができていたんですね。

エイリアンの原型:リー

この「ネクロノーム」というシリーズの作風をギーガーはバイオメカノイドと呼びますが、このシリーズの前進には「リー」というシリーズがあります。

この「リー」シリーズのモデルとなったのはギーガーの恋人でもあったスイスの舞台女優のリー・トープラーという人物です。

【アートモデル】リー・トープラー「ギーガー・モデル」
リー・トープラー(1948年-1975年5月19日)はスイスの舞台女優。H.R.ギーガー作品のモデル、ギャラリー経営者。またギーガーの恋人としてよく知られている。 ギーガーは、全裸の彼女をキャンバスにしてボディペインティングを行うなどトープラーをミューズとみなし、生と美貌を永遠化する作品を制作する。 彼女をモデルにした...

トープラーはギーガーいわく、「巨大な精力と生の欲望」を持った女性だそうです。

トープラーはドラッグの常用や乱行、ギーガーと並行して他の男性とも交際するなど、衝動性が強く、望んだことはすぐに行動に移してしまう人物でした。

彼女はうつ症状にも悩まされていたようで、27歳の若さで自殺してしまいます。

彼女の強烈な生き様はギーガーに死と生(性)の鮮烈なイメージを植え付け、それはネクロノームを経由して、エイリアンにも受け継がれているのでしょう。

これを知ってエイリアンのデザインを見返してみると、怖さと共にどことなく美しさも備えていると言われるのも合点がいきます。

エイリアンの体形はガチムチマッチョなスタイルではなく、細い腰回りで指や手・足がすらっと長く伸びていて、女性の身体的特徴を備えています。それはトープラーがモデルとなった「リー」シリーズから受け継がれたエッセンスなんでしょう。

そして、この強烈な死と生(性)を内包したデザインイメージが、生きた人間に寄生して成長する生態的特徴と結びついて、単純な暴力性で人の命を脅かす以上の恐怖を観客に与えるモンスターとなったのだと思います。

リドスコを始めとした製作陣の後押しもあり、フォックスの反対を跳ね除け、ギーガーのデザインが採用されることになります。

映画は総合芸術

映画は総合芸術だといいますが、ここまで振り返ってみると、制作に関わった様々な人たちが少しずつ「エイリアン」の大ヒットに繋がる要素を付け足していったことがわかります。

  • 宇宙のモンスターホラー → オバノン
  • チェストバスター → シュセット
  • アンドロイドの乗組員 → ガイラー
  • A級作品の予算・体制→ キャロル、ガイラー
  • 美術/映像センス → スコット
  • エイリアンのデザイン → ギーガー

これらの要素がお互いを毀損する事なく、奇跡的な配合を果たした結果、「エイリアン」という作品は生まれたんですね。

ということでメイキング・オブ・エイリアンでした。

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