メイキング・オブ・エイリアン(2)

エイリアン

ギーガーとダリ

さて、前回ホドロフスキー制作のデューンの現場でHR・ギーガーと出会ったオバノンさん。ギーガーとはどんな人なのでしょうか。

【美術解説】H・R・ギーガー「エイリアンのデザイナー」
ハンス・ルドルフ・ギーガー(1940年2月5日~2014年5月12日)はスイスの画家、彫刻家、デザイナー。 冷たいバイオメカニカルな人間や機械のイメージをエアブラシで描く作風で知られる。 彼がデザインした代表作は映画『エイリアン』である。参加した特殊効果チームは1980年のアカデミー賞の視覚効果部門を受賞している。20...

ギーガーはもともとサルバドール・ダリと交流があり、彼の作風からも大きな影響を受けていたそうです。

「デューン/砂の惑星」の企画時にホドロフスキーにギーガーを紹介したのもダリでした。ダリはシュールレアリズムの代表的な作家で、彼の作品を見るとなるほど確かに、ギーガーの作品に通じるものがあります。

これがオバノンとギーガーの出会いとなり、のちにエイリアンを伝説的な傑作とする要素が結びつくことになります。

「デューン/砂の惑星」の制作は先述のとおり中止となってしまいますが、その時オバノンは真底がっかりしたそうです。しかも、完成しなかった映画の準備期間の報酬はとても低く、オバノンは破産寸前状態で住む家もなかったので、シュセットの家で居候させてもらうことになります。

こうして、改めてオバノンとシュセットは「Memory」(=「エイリアン」)の脚本の執筆に取り組むことになります。

脚本執筆リスタート

その過程で、エイリアンのエポックメイキングな特徴となる生態が生み出されます。人間に寄生して、腹を食い破って生まれてくるチェストバスターのアイディアはシュセットの発案だったそうです。

オバノンとシュセットは映画会社に脚本を売り込み始めます。いくつかの会社と交渉するうち20世紀フォックス社がこの作品に興味を持ちました。プロデューサーのディビット・ガイラーの最初の感想として「ひどい脚本だが、一つだけすごいシーンがある。チェストバスターが生まれるシーンだ」と、このシーンがキービジュアルとして印象に刻み込まれたようです。

オバノンは当初、自分で監督するつもりでしたが、ガイラーたちは脚本を書き直して別の監督に撮らせようと考えていました。書き直された脚本に怒ったオバノンですが、結局は監督の代わりに視覚デザイン・コンサルタントとして制作に関わることでフォックスと契約することになります。

ダン・オバノンというと「バタリアン」とか「スペース・バンパイア」とかSFやホラー界ではスーパースター(?)な方なんですが、いかんせんどうしてもB級感全開の映画を作る印象なので、「エイリアン」の監督してたら、果たしてSFホラーの金字塔的作品になっただろうか・・・笑
なので、フォックスは英断だったの思います。もちろん、原型となる脚本を作ったのはオバノンなのでその功績は計り知れないのですが。

アンドロイドという絶妙なスパイス

フォックスとオバノンの契約後、大幅に脚本の修正が入り、この辺りの段階でアンドロイドのアッシュの要素が加わります。

このアンドロイドの要素は映画の後半、エイリアンによる緊張と不安の連続でややもするとダレてきてしまいそうな時間帯で見る側に予想外のショックと更なる絶望を与えます。このひねりの要素が映画のクオリティを上げる重要なスパイスになっています。

映画の後半、船長のダラスを失い、冷静さを失っていく乗組員たち。リプリーがマザーコンピュータを調べるとノストロモ号の所有元でありリプリーたちの雇い主である会社は最初からエイリアンの捕獲を目的としており、そのためには乗組員を犠牲にしてもよいとする司令を出していた。

その司令はアンドロイドのアッシュのみ知らされており、彼はエイリアンの捕獲のために行動していた。唯一、エイリアンについての情報を持っていたアッシュから、エイリアンは完璧な生命体であり、生き残るチャンスはないと告げられる。

このアッシュが人間ではなく、アンドロイドだったというのが絶妙。人間だったら、おそらくストーリーの展開上、リプリーたちもしくはエイリアンの攻撃で彼が死ぬことになるでしょう。そうすると、悪党が死んで一瞬でも観客の気分も晴れるというものですが、アンドロイドだと本当の黒幕である会社は安全な地球にいて姿すら表さない。憤りと絶望だけが加速して終盤に突入します。中だるみを引き締めつつ、より緊張感を高めるポイントになってます。

また、こういった危険な生物に襲われる系の映画で、よく主人公たちを危険な状況に引きこむために強引な展開やアホみたいな判断をするキャラクターが立ち回ります。そういうのがあると、ツッコミ入れたくなってしまい、リアリティや緊張感が下がってしまいがち。

しかし、このアンドロイドと会社が意図的にその状況に引き込んでいたという構成だと、説得力が全然違います。危険な状況に持ち込んだら自分も危険じゃんというツッコミもアンドロイドなので任務最優先で納得できます。

目指せA級作品!

ガイラーはこのジャンルの映画では特殊効果が重要になると考えていて、内容はB級ホラーだが制作費はA級作品として扱うよう20世紀フォックスに進言します。

この時代、SFでかつホラーというジャンルに大きな予算を投入することにはフォックスも慎重になり、なかなか制作が決まりませんでした。

しかし、1978年の「スターウォーズ」の大ヒットで世の中のSFに対する印象はガラッと変わることになります。どの映画会社もこぞってSF作品を作りたがるようになり、映画プロデューサーたちはどこかにSF映画の企画はないかと探し回るようになります。この時代の流れのおかげで「エイリアン」もA級予算での制作にゴーサインが出ることになりました。

次に監督の選任。ガイラーはB級モンスター映画には絶対にしたくないと考え、同じく制作のゴードン・キャロルも作品の成功のためスケールを重視し、美術デザイン含めてクオリティを高めることを念頭に置きました。

ガイラーたちは一流監督たちにオファーしますが、誰もがお安いホラー映画だと思い込み断られてしまいます。ロバート・アルドリッチ、ピーター・イェーツ、ジャック・クレイトンなどに打診したそうですが、ことごとくNoの回答。

最終的には「デュエリスト」を製作し、カンヌの映画祭で新人監督賞を受賞したばかりのリドリー・スコットが監督に決まります。リドスコさんはエイリアンの監督を務めるにあたり、SF要素は「2001年宇宙の旅」に、ホラー要素は「悪魔のいけにえ」にそれぞれ影響を受けて制作に臨んだと語っています。

続いてはめちゃくちゃ重要なエイリアンのデザインですが、続きはまた次の記事で。

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